土井 正三

Ｖ９時代の巨人の不動の二塁手、かたや、オリックス監督時代に
イチローの才能を見抜く事が出来なかった凡才、とも言われた事も。
同時期、オリックスの主力選手であった松永に、「Ｖ９さんの下では
野球ができん」と造反されたりもしましたね。
その土井氏が昨日亡くなられました。選手時代は華やかな栄光に包まれ、
監督・コーチ時代は不遇の時を送られた、という印象です。

イチローが偉業を達成し、偉大な選手になればなるほど、反比例するように
土井氏が小さくなるようでした。でもねえ、新人選手で才能があって、
一年目から一軍で活躍するような選手だからこそ、土井監督は二軍に落とした
んだと思うんです。それも野茂投手からホムランを打ったその日に二軍行きを
命じた。これが土井氏が無能であるという、非常にわかりやすい証拠だ！
と、イチローが２１０安打を打った当時はよく言われました。

パンチなんかも、悪し様に土井氏の悪口を言ってましたよね。
土井氏がいなくなったから、イチローもパンチも活躍の場を与えられた、と。
あの人がずっとオリックスの監督をやってたら暗黒時代が続いていた、と。
その話が出るたびに、私は高田繁・現ヤクルト監督の新人時代の話を思い出します。
高田監督も明治大から巨人に入って即レフトのレギュラーを取るような、
優秀な新人でした。当時の川上監督は、オープン戦から高田をレフトで使い続けて
いましたが、コーチからの評判もすこぶる良いものだったそうです。

ところが川上監督は別な事を考えていたんですね。しかしなんといっても
高田繁氏は、あの明治大の、気難しい人で有名だった島岡監督から４年間で
ただの一度も鉄拳を振るわれなかったという、超優等生だったんです。
だからなかなか川上監督の思惑通りの事をやらない。

このままレフト高田で固定されるか、というある日の試合のこと。
レフト前に飛んだヒットを高田が二塁に山なりの返球をしたんですね。
走者はもちろん一塁を回ったところで止まってます。
それを見た川上監督が「よし！やっとこの時が来た！」と喜んでコーチを
呼び、ベンチに帰って来た高田に川上監督が説教をして二軍落ちを言い渡したそうです。

川上監督は、順調に来すぎている高田に、なんとか「プロの洗礼」を受けさせたかった
そうなのです。しかし走攻守そろっている上に練習態度も、生活態度も真面目ときて
そのきっかけをなかなかつかまえれなかったんで、なかば「こじつけ」というか
別件逮捕みたいな方法でしか高田にカミナリを落とせなかったんですね。

もちろん高田がこんな事でクサルような選手でないことを承知の上での「悪行」です。
二軍に行かせる事で、古参の選手のやっかみもかわせますし、チームの引き締めにもなると
計算し、実際高田はすぐに一軍に戻ってきてます。

土井氏は、イチローに「ヒットマシン」としての才能を見出していた、と思わせるのが
野茂からホムランを打ったその日に二軍落ちを命じた、ってところなんですよね。
振り子打法を否定し、内野安打を狙った打ち方を指導した、ってWikiにはありますが、
現在のイチローの姿そのものですよね。

私は、現役時代の土井さんのプレーが大好きでした。二塁手として尊敬してました。
ミズノの土井モデルのグラブも買いました。バットも探しました。バットはミズノ製じゃ
なかったんですよね。王選手と同じ、ジュン石井製を愛用されてたんで、これがまた
見つけるのが大変だった。今みたいにネットなんかない時代だったから、川崎から東京まで
行って、有名どころのスポーツ店を探してねぇ。土井選手は私の青春の１ページでした。
ご冥福を祈ります。